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長崎地方裁判所 昭和44年(行ウ)12号 判決

第一一号事件原告 阿部國人 外六二名

第一二号事件原告 城戸智恵弘

第一一号事件被告 長崎県知事

第一二号事件被告 長崎県教育委員会

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら(請求の趣旨)

1  被告長崎県知事が昭和四一年一二月二一日になした原告阿部國人につき停職三月、同寺本勝につき停職一月、同林田正幸につき減給二か月一〇分の一、同村上任、同吉井研介、同川村好徳、同松本和孝、同大石武彦、同西山俊行、同多田章、同山中次郎作、同土谷仁、同浜崎員正、同水野尾武成、同東原弘泰、同田端市郎、同森崎幹、同森田知隆、同北浦祐三、同松尾隆藤、同中尾稔昭、同山内敏生、同沢村壽三郎、同佐藤清、同北浦一雄、同井口元一、同浜崎満安、同小森勝人、同西村利幸及び同本多利久につきいずれも減給一か月一〇分の一、昭和四四年(行ウ)第一一号事件その余の原告らにつきいずれも戒告並びに被告長崎県教育委員会が同日になした原告城戸智弘につき停職一月の各懲戒処分は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

(本案前の申立)

1 原告阿部國人、同林田正幸、同中村正己、同犬塚堅志郎、同大石智子、同千手喜久子、同川野浩一、同下崎茂敏、同田島紀男、同渡辺シゲコ、同松尾俊彦、同佐藤隆義、同亀川昭、同浅田謙介、同宮崎大一郎、同島尾保、同荒木勝義、同高山知明、同広佐古タヅ子、同紀内隆邦、同岡田千春、同西島妙、同芝田正弘、同立石博、同豊村昌敏、同小柳美智子、同酒井獅子郎、同木村靖、同安永正美、同長谷川資洋、同岡部義朗、同平田市郎、同柳辺良一、同立石吉一及び同森下軍一の訴えをいずれも却下する。

2 訴訟費用は右原告らの負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和四一年一〇月二一日当時、原告城戸智惠弘は被告長崎県教育委員会事務職員として長崎県に勤務し、その余の原告らは長崎県職員として同県に勤務する地方公務員であり、被告長崎県教育委員会は原告城戸智惠弘の、被告長崎県知事はその余の原告らの任命権者である。

2  被告らは、昭和四一年一二月二一日付をもつて各原告に対し、請求の趣旨1記載の各懲戒処分を発令し(以下「本件懲戒処分」という。)、右通知はそのころ各原告に到達した。

3  よつて、原告らは本件懲戒処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

二  被告長崎県知事の本案前の主張

1  原告阿部國人及び同林田正幸の本件訴えについて

原告阿部國人は昭和四三年四月一二日付で、同林田正幸は昭和四四年三月三一日付でいずれも任意に退職した。右原告らの本件訴えは、長崎県職員としての地位を自らの意思により放棄した後約二年又は一年経過した後に提起されたものであるから、右原告らは本件懲戒処分についてその取消を求める訴えの利益を有せず、また処分後長期間を経過している本件懲戒処分の効力を争うことは行政処分の法的安定性を著しく害するもので信義則にも反し、不適法な訴えであるといわねばならない。

2  戒告処分取消の訴えについて

本案前の申立1記載の原告らのうち原告阿部國人、同林田正幸を除く原告ら三三名に対する懲戒処分は、いずれも戒告処分であるところ、地方公務員に対する懲戒処分は、公務員の勤務秩序を保持し、公務員としての義務を全からしめるため、職務上の義務違反その他公務員としてふさわしくない非行に対して科するもので、いわゆる特別権力関係に基づく行政監督権の作用であると解すべきところ、特別権力関係内部の秩序維持は、それが一般市民としての権利義務に関するものでない限り、司法権の対象とさるべきではない。そして、戒告は懲戒処分として職員の服務義務違反の責任を確認し、その将来を戒める処分であり、その効果は当該職員の市民法上の権利義務に直接関係のないものである。したがつて、本件訴えのうち、戒告処分の取消を求める訴えは、不適法として却下を免れない。

三  請求原因に対する認否

請求原因記載の事実は、すべて認める。

四  抗弁(本件懲戒処分の理由)

1  本件懲戒処分の概要

原告らと長崎県職員組合

長崎県職員組合(以下「県職組」という。)は、長崎県に勤務する一般職員及び単純労務職員をもつて組織された地方公務員法(以下「地公法」という。)五二条に基づく職員団体であつて、全日本自治団体労働組合(以下「自治労」という。)に加入していた。昭和四一年一〇月当時における長崎県職員の総数は、交通局勤務職員、警察職員及び学校職員を除いて約五、八五〇名であり、うち地公法の適用される一般職員が約五、一〇〇名、地公法五七条にいう単純労務職員が約七五〇名で、県職組には、一般職員中約三、七五〇名が、単純労務職員中約七三〇名が加入していた。

県職組には、執行委員長一名、副執行委員長一名、書記長一名、会計一名、執行委員九名、会計監事三名、特別執行委員若干名が役員として置かれていた。県職組の最高議決機関は、役員及び代議員をもつて構成する大会であり、そこでは、組合の基本方針等組合の運営に関し重要な事項を議決することになつていた。大会に次ぐ議決機関としては、役員及び中央委員をもつて構成する中央委員会があり、大会において委任された事項等を議決することになつていた。組合の執行機関は、役員(会計監事を除く。)をもつて構成される執行委員会であつた。県職組には長崎、大瀬戸、諫早、島原、大村、佐世保、北松南、北松北、五島、壱岐、対馬の一一支部があり、直轄分会として東京、大阪、福岡、農業改良普及所、家畜保健衛生所の五個の分会があつて、各支部には支部長一名、副支部長一名、書記長一名、執行委員若干名、会計監事二名以上が役員として置かれていた。

本件争議行為の経緯

自治労は、昭和四一年八月二九日第一五回定期大会において、ベトナム反戦、人事院勧告の完全実施及び所要地方財源の確保等を要求して同年一〇月二〇日ころ一時間の争議行為を行うことを決定した。

県職組は、同年九月二〇日から二二日まで第二四回定期大会を開催し、右の自治労定期大会の決定に従い、重点目標として人事院勧告の完全実施及び地方財源の確保を掲げ、一〇月二一日始業時より一時間の争議行為を行うことを決定した。

右の如き自治労、県職組の動向に対処して、被告長崎県知事は、県総務部長名で各所属長宛県職員が違法な争議行為に参加しないよう指導すべく指示し、また同年一〇月一四日には自治大臣が談話を発表し、政府は公務員の給与を改善するためできる限りの措置をとることとしたことを明らかにし、合わせて地方公務員に対し違法な争議行為に参加しないよう要望した。また被告長崎県知事は一〇月一九日県職組執行委員長らに対し文書で違法な争議行為を自重すべきことを要望し、仮に実行された場合にはその責任を厳重に追及する旨の警告を発した。他方、被告長崎県教育委員会も、同月七日及び一九日、各所属長あて通達を発し、部下職員が違法行為を行うことがないよう指導監督に万全を期するよう指示した。

それにもかゝわらず、原告らは被告らの再三の注意、警告を無視し、本件争議行為を企て、その遂行を共謀し、組合員をそゝのかし、あおつて、一〇月二一日対馬支部を除く各支部にわたり予定どおりの統一行動を実施し、その結果原告らを含む組合員約四八〇名が一斉に職務を放棄したものである。

2  原告ら各自の具体的違法行為

(一) 原告阿部國人

同原告は、本件争議行為当時、県職組執行委員長として組合業務に専従していた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員長として、本件争議行為に際し、本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、

(ア) 昭和四一年九月初旬執行委員会を開催し、県職組第二四回定期大会に提案する「一〇月二一日始業時より一時間の争議行為を行う」旨の執行部案を決定した。

(イ) 同年九月二〇日から二二日まで開催された県職組第二四回定期大会において、同大会に対し「一〇月二一日始業時より一時間の争議行為を行う」旨の提案をし、可決を求めた。

(ウ) 同年九月下旬自治労第一五回定期大会及び県職組第二四回定期大会の決定事項に基づき「閣議決定時の戦術行使についての一票投票実施について(指令)」と題する指令を各支部長及び直轄分会長宛に発し、自治労大会及び県職組大会における争議行為実施の決定を通知するとともに、実力行使批准投票用紙を送付してこれを慫慂した。

(エ) 同年九月二五日から一〇月二〇日までの間本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の記事を登載した県職組機関紙「県職ながさき」を数回にわたり発行し、県庁正門等において県職員に対し自ら配付し、あるいは所属組合員をして配付せしめた。

(2) 一〇月二一日朝県庁本庁でピケツテイングをした。

(二) 原告村上任

同原告は、本件争議行為当時、県職組副執行委員長として組合業務に専従していた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる副執行委員長として本件争議行為に際し、同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月二〇日午後三時二〇分ころ、佐世保渉外労務管理事務所において、県職員に翌二一日の争議行為実施指令を伝達し争議行為参加を指示した。

(3) 一〇月一九日午後一時一〇分ころから二〇分ころまで右同所において県職員に対し、本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をし、かつ一〇月一八日午前一〇時ころ県庁本庁の社会課及び児童家庭課に同趣旨の記事を登載した自治労長崎県本部機関紙「自治労長崎」を配付した。

(4) 一〇月二一日朝県北開発振興局でピケツテイングをした。

(三) 原告松本和孝

同原告は、本件争議行為当時、総務部統計課に勤務し、県職組の会計一切を掌理する者であるが、

(1) 県職組本部役員たる会計として本件争議行為に際し、同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午前九時ころから九時三分ころまでは西彼杵福祉事務所大瀬戸分室で、同日午前一〇時五〇分ころには大瀬戸保健所で、県職員に対し翌二一日の争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(4) 一〇月二一日朝大瀬戸保健所でピケツテイングをした。

(四) 原告林田正幸

同原告は、本件争議行為当時、県職組執行委員兼長崎支部長として組合業務に専従していた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として、本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 県職組長崎支部役員とともに県職組本部から送付された実力行使のための批准投票用紙を県職員に配付して賛否の投票をさせた。

(3) 一〇月二〇日午後他の長崎支部役員とともに、県職組長崎支部名義のビラにより、県職員に対し翌二一日断固一時間の争議行為を実施する旨の決意を述べ、争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一九日県庁本庁文化広報課において、県職員に対し一〇月二一日の争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(5) 一〇月二一日朝県庁本庁でピケツテイングをした。

(五) 原告吉井研介

同原告は、本件争議行為当時、県職組執行委員として組合業務に専従していた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月一九日午前一一時四三分ころから同四六分ころまで、二〇日午前一〇時三〇分ころから同四〇分ころまではいずれも島原県税事務所で、一九日午後二時二五分ころから同三五分ころまでは島原職業訓練所で、同日午後四時五〇分ころ、二〇日午前九時五〇分ころから一〇時一〇分ころまでは南高来福祉事務所で、同日午前一一時ころから一一時一〇分ころまでは島原耕地事務所で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(3) 一〇月二一日朝島原県税事務所でピケツテイングをした。

(六) 原告沢村壽三郎

同原告は、本件争議行為当時県職組執行委員兼長崎支部書記長として組合業務に専従していた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として、本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 県職組長崎支部役員とともに、県職組本部から送付された争議行為のための批准投票用紙を県職員に配付して賛否の投票をさせた。

(3) 一〇月二〇日午後他の長崎支部役員とともに、県職組長崎支部名義のビラにより、県職員に対し翌二一日は断固一時間の争議行為を実施する旨の決意を述べ、争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一九日午後五時ころ長崎職業訓練所で、二〇日午前九時ころは中央児童相談所で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をし、かつ同日午後五時ころ県庁本庁北門において退庁する県職員に対し同趣旨の記事を登載した総評・公務員共闘のビラ及び長崎職公務員共闘のビラを配付した。

(5) 一〇月二一日朝長崎土木事務所でピケツテイングをした。

(七) 原告大石武彦

同原告は、本件争議行為当時、民生労働部保険課に勤務し県職組執行委員をしていた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として本件争議行為に際し同本部役員たるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(八) 原告西山俊行

同原告は、本件争議行為当時、衛生部予防課に勤務し、県職組執行委員をしていた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から午後二時まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月一七日午前一〇時五〇分ころから一二時五〇分ころまでは整肢療育園で、同日午後二時ころから二時三〇分ころまでは諫早保健所で、一八日午後二時三〇分ころから三時ころまでは諫早県税事務所で、一九日午後一時ころから二時ころまでは松浦保健所で、二〇日午前一〇時三〇分ころから一一時五分ころまでは平戸種畜場で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(九) 原告多田章

同原告は、本件争議行為当時、農林部農地開拓課に勤務し、県職組執行委員をしていた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として、本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 同日朝壱岐支庁でピケツテイングをした。

(一〇) 原告川村好徳

同原告は、本件争議行為当時、長崎県税事務所総務課に勤務し、県職組執行委員をしていた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として、本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月一七日午後四時ころ島原耕地事務所で、一八日には島原種畜場で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(4) 一〇月二一日朝県北福祉事務所でピケツテイングをした。

(一一) 原告西村利幸

同原告は、本件争議行為当時、総合農林センター環境部に勤務し、県職組執行委員をしていた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(一二) 原告田端市郎

同原告は、本件争議行為当時、諫早家畜保健衛生所に勤務し、県職組執行委員をしていた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる執行委員として本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月一八日午後二時ころから三時ころまでは大村保健所で、一九日午前一一時六分ころから午後一時二五分ころまで、二〇日午後四時二〇分ころから同二一分ころまで及び同日午後四時四〇分ころから同四三分ころまでは五島支庁で、一九日午後一時四五分ころは五島福祉事務所で、同日午後三時ころは五島種畜場で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(4) 一〇月二一日朝五島支庁でピケツテイングをした。

(一三) 原告寺本勝

同原告は、本件争議行為当時、県職組特別執行委員兼自治労長崎県本部執行委員長として組合業務に専従していた者であるが、

県職組本部役員たる特別執行委員として、本件争議行為に際し同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(一四) 原告山中次郎作

同原告は、本件争議行為当時、長崎林業事務所に勤務し、県職組長崎支部副支部長をしていた者であるが、

(1) 県職組支部役員として本件争議行為に際し他の支部役員とともに県職組本部の指令に基づいて、本部から送付された争議行為のための批准投票用紙を県職員に配付して賛否の投票をさせた。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から一〇時まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後県職組長崎支部名義のビラにより、県職員に対し翌二一日断固一時間の争議行為を実施する旨の決意を述べ、争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一八日午前八時三〇分ころ県庁北門において登庁する県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の記事を登載した県職組機関紙「県職ながさき」を配付した。

(5) 一〇月二一日朝県庁本庁でピケツテイングをした。

(一五) 原告柳辺良一

同原告は、本件争議行為当時、企画部文化広報課に勤務し、県職組長崎支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後県職組長崎支部名義のビラにより、県職員に対し翌二一日断固一時間の争議行為を実施する旨の決意を述べ、争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一四日、一八日、一九日の各午前八時三〇分ころ県庁北門において登庁する県職員に対し、本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の記事を登載した県職組機関紙「県職ながさき」を、二〇日午後五時ころは同所において退庁する県職員に対し同趣旨を登載した総評・公務員共闘のビラを配付した。

(5) 一〇月二一日朝長崎職業訓練所でピケツテイングをした。

(一六) 原告下崎茂敏

同原告は、本件争議行為当時、出納局出納課に勤務し、県職組長崎支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後県職組長崎支部名義のビラにより、県職員に対し翌二一日断固一時間の争議行為を実施する旨の決意を述べ、争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一四日、一九日の各午前八時三〇分ころ県庁北門で登庁する県職員に対し、本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の記事を登載した県職組機関紙「県職ながさき」を、二〇日午後五時ころ、県庁正門で退庁する県職員に同趣旨の記事を登載した総評・公務員共闘のビラを配付した。

(5) 一〇月二一日朝長崎県税事務所でピケツテイングをした。

(一七) 原告中村正己

同原告は、本件争議行為当時、長崎県税事務所直税課に勤務し、県職組長崎支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後県職組長崎支部名義のビラにより、県職員に対し翌二一日断固一時間の争議行為を実施する旨の決意を述べ、争議行為参加を指示した。

(一八) 原告高山知明

同原告は、本件争議行為当時、中央児童相談所判定指導課に勤務し、県職組長崎支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から一〇時まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後県職組長崎支部名義のビラにより、県職員に対し翌二一日断固一時間の争議行為を実施する旨の決意を述べ、争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月二〇日午前九時ころ中央児童相談所において職員に対し翌二一日の争議行為に参加することを呼びかける宣伝活動をした。

(5) 一〇月二一日朝県庁本庁でピケツテイングをした。

(一九) 原告小森勝人

同原告は、本件争議行為当時、西彼杵福祉事務所大瀬戸分室福祉課に勤務し、県職組大瀬戸支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時一三分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午前九時ころ西彼杵福祉事務所大瀬戸分室で、同日午前一〇時五〇分ころ大瀬戸保健所で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(4) 一〇月二一日朝大瀬戸保健所でピケツテイングをした。

(二〇) 原告浜崎員正

同原告は、本件争議行為当時、諫早耕地事務所業務課に勤務し、県職組諫早支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時一〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後二時一一分ころ東彼北高福祉事務所で、同日午後二時二五分ころから三五分ころまでは諫早県税事務所で、同日午後二時四〇分ころから四三分ころまでは諫早林業事務所で、同日午後三時ころは整肢療育園で、同日午後諫早保健所及び繭検定所で、いずれも県職員に対し実施指令を伝達し本件争議行為への参加を指示した。

(4) 一〇月一五日午後二時ころ諫早耕地事務所で、一九日午後二時二五分ころ整肢療育園で、同日午後三時三〇分ころから四〇分ころまで及び二〇日午前一一時三〇分ころから三五分ころまでは諫早保健所で、一九日午後四時二五分ころから三〇分ころまで及び二〇日午前一〇時三分ころから四分ころまでは東彼北高福祉事務所で、一九日午後四時五〇分ころから午後五時ころまで及び二〇日午前一〇時三〇分ころから三五分ころまでは諫早県税事務所で、二〇日午前一〇時五分ころから一〇分ころまでは諫早林業事務所で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(5) 一〇月二一日朝諫早総合庁舎でピケツテイングをした。

(二一) 原告本多利久

同原告は、本件争議行為当時、総合農林センター企画調整室農業機械化研修所に勤務し、県職組諫早支部副支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二五分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後三時ころから三時五分ころまで諫早保健所で県職員に対し実施命令を伝達し、翌二一日の争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一八日午後二時三〇分ころから三時ころまで及び一九日午後四時五〇分ころから五時ころまでは諫早県税事務所で、一九日午後三時三〇分ころから四〇分ころまでは諫早保健所で、二〇日は総合農林センターで、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(5) 一〇月二一日朝諫早総合庁舎でピケツテイングをした。

(二二) 原告井口元一

同原告は、本件争議行為当時、諫早県税事務所課税課に勤務し、県職組諫早支部書記長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時一五分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後二時二五分ころから三五分ころまでは諫早県税事務所で、二〇日午後三時ころは整肢療育園で、二〇日午後には繭検定所で、いずれも県職員に対して実施指令を伝達し翌二一日の争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一七日午前一〇時五〇分ころから一二時五〇分ころまで及び一九日午後二時二五分ころ整肢療育園において、県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(5) 一〇月二一日午前七時五〇分ころ諫早駅付近において県職員に対して集合場所を指示、誘導して職場集会に参加せしめた。

(二三) 原告田島紀男

同原告は、本件争議行為当時、東彼北高福祉事務所福祉課に勤務し、県職組諫早支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(二四) 原告芝田正弘

同原告は、本件争議行為当時、諫早保健所衛生課に勤務し、県職組諫早支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から四〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 右同日朝諫早保健所でピケツテイングをした。

(二五) 原告立石博

同原告は、本件争議行為当時、総合農林センター作物部に勤務し、県職組諫早支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三分から九時二五分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 同日朝総合農林センターでピケツテイングをした。

(二六) 原告豊村昌敏

同原告は、本件争議行為当時、総合農林センター技術普及部蚕業指導所に勤務し、県職組諫早支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二九分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日総合農林センターにおいて県職員に対し実施指令を伝達し翌二一日の争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月二一日午前八時三〇分ころから四〇分ころにかけ総合農林センター宿直室で県職員に対し争議行為参加を指示した。

(5) 同日朝同センターでピケツテイングをした。

(二七) 原告渡辺シゲコ

同原告は、本件争議行為当時、整肢療育園医療課に勤務し、県職組諫早支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時一五分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 同日朝整肢療育園でピケツテイングをした。

(二八) 原告浜崎満安

同原告は、本件争議行為当時、種鶏場に勤務し、県職組大村支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月一八日午前九時一五分ころから三〇分ころまで、同日午後二時ころから三時ころまで、一九日午後及び二〇日午後は大村保健所で、一九日午前一二時二〇分ころから五〇分ころまでは東浦病院で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(4) 一〇月二一日朝大村保健所でピケツテイングをした。

(二九) 原告酒井獅子郎

同原告は、本件争議行為当時、大村保健所予防課に勤務し、県職組大村支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二六分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(三〇) 原告浅田謙介

同原告は、本件争議行為当時、総合農林センター果樹部に勤務し、県職組大村支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二五分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 同日朝種鶏場でピケツテイングをした。

(三一) 原告佐藤清

同原告は、本件争議行為当時、南高来福祉事務所第二福祉課に勤務し、県職組島原支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後四時四〇分ころは島原土木事務所で、同日、更に島原種畜場で、いずれも県職員に対して実施指令を伝達し翌二一日の争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一七日及び二〇日の午前一二時ころは島原耕地事務所で、一九日午前一一時ころから一一時一〇分ころまで及び二〇日午前一一時五分ころは島原土木事務所で、一九日午後二時二五分ころから三五分ころまでは島原職業訓練所で、一九日午後四時五〇分ころは南高来福祉事務所で、二〇日午前一〇時三〇分ころから四〇分ころまでは島原県税事務所で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(5) 一〇月二一日朝島原土木事務所でピケツテイングをした。

(三二) 原告北浦一雄

同原告は、本件争議行為当時、島原職業訓練所指導課に勤務し、県職組島原支部書記長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月一九日午前一二時ころは小浜保健所で、同日午後二時二五分ころから三五分ころまでは島原職業訓練所で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(4) 一〇月二一日朝島原県税事務所でピケツテイングをした。

(三三) 原告水野尾武成

同原告は、本件争議行為当時、佐世保県税事務所直税課に勤務し、県職組佐世保支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時四二分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後二時三七分ころから四〇分ころまで、同日午後五時三分ころから四分ころまでは佐世保県税事務所で、同日午後三時二〇分ころは佐世保渉外労務管理事務所で、いずれも県職員に対し実施指令を伝達し、翌二一日の争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一九日三時一〇分ころから三五分ころまで佐世保渉外労務管理事務所で県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(5) 一〇月二一日朝県北開発振興局でピケツテイングをした。

(三四) 原告東原弘泰

同原告は、本件争議行為当時、佐世保県税事務所直税課に勤務し、県職組佐世保支部書記長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時四二分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後二時三七分ころから四〇分ころまで佐世保県税事務所において県職員に対し翌二一日の争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月二一日朝県北開発振興局でピケツテイングをした。

(三五) 原告森下軍一

同原告は、本件争議行為当時、佐世保児童相談所判定指導課に勤務し、県職組佐世保支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 同日朝佐世保児童相談所でピケツテイングをした。

(三六) 原告森田知隆

同原告は、本件争議行為当時、県北福祉事務所第二福祉課に勤務し、県職組北松南支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後四時ころから四時五分ころまで県北福祉事務所において、県職員に対し本件争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月二一日朝県北福祉事務所でピケツテイングをした。

(三七) 原告松尾隆藤

同原告は、本件争議行為当時、佐々療養所医療課に勤務し、県職組北松南支部副支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 同日朝佐々療養所でピケツテイングをした。

(三八) 原告北浦祐三

同原告は、本件争議行為当時、県北福祉事務所総務課に勤務し、県職組北松南支部書記長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 同日朝県北福祉事務所でピケツテイングをした。

(三九) 原告木村靖

同原告は、本件争議行為当時、県北福祉事務所第一福祉課に勤務し、県職組北松南支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) (三八)(2)と同じ。

(3) (三八)(3)と同じ。

(四〇) 原告安永正美

同原告は、本件争議行為当時、北松職業訓練所指導課に勤務し、県職組北松南支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時一五分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月一九日北松職業訓練所において、本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の記事を登載した県職組機関紙「県職ながさき」を、二〇日同所において、同趣旨の記事を登載した自治労長崎県本部機関紙「自治労長崎」を、いずれも県職員に対して配付した。

(4) (三八)(3)と同じ。

(四一) 原告森崎幹

同原告は、本件争議行為当時、五島支庁水産商工課に勤務し、県職組五島支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時一七分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 一〇月二〇日午後四時四〇分ころ五島支庁において県職員に対し翌二一日の争議行為参加を指示した。

(4) 一〇月一九日午前一二時ころから一二時一〇分ころまでは五島支庁で、同日午後一時四五分ころには五島福祉事務所で、同日午後三時ころには五島種畜場で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加することを呼びかける趣旨の宣伝活動をした。

(5) 一〇月二一日朝五島支庁でピケツテイングをした。

(四二) 原告平田市郎

同原告は、本件争議行為当時、五島支庁税務課に勤務し、県職組五島支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) (四一)(2)と同じ。

(3) (四一)(5)と同じ。

(四三) 原告土谷仁

同原告は、本件争議行為当時、壱岐支庁水産商工課に勤務し、県職組壱岐支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二五分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) 同日朝壱岐支庁でピケツテイングをした。

(四四) 原告中尾稔昭

同原告は、本件争議行為当時、壱岐福祉事務所福祉課に勤務し、県職組壱岐支部副支部長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) (四三)(3)と同じ。

(四五) 原告山内敏生

同原告は、本件争議行為当時、壱岐福祉事務所総務課に勤務し、県職組壱岐支部書記長をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) (四四)(2)と同じ。

(3) (四三)(3)と同じ。

(四六) 原告川野浩一

同原告は、本件争議行為当時、壱岐支庁税務課に勤務し、県職組壱岐支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) (四三)(2)と同じ。

(3) (四三)(3)と同じ。

(四七) 原告岡部義朗

同原告は、本件争議行為当時、壱岐支庁農地農林課に勤務し、県職組壱岐支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) (四三)(2)と同じ。

(3) (四三)(3)と同じ。

(四八) 原告立石吉一

同原告は、本件争議行為当時、壱岐支庁耕地課に勤務し、県職組壱岐支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) 一〇月二一日午前八時三〇分から九時二二分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つた。

(3) (四三)(3)と同じ。

(四九) 原告長谷川資洋

同原告は、本件争議行為当時、壱岐福祉事務所福祉課に勤務し、県職組壱岐支部執行委員をしていた者であるが、

(1) (一四)(1)と同じ。

(2) (四四)(2)と同じ。

(3) (四三)(3)と同じ。

(五〇) 原告荒木勝義他一三名(原告目録五〇ないし六三記載の原告ら)

同原告らは、本件争議行為当時、別表勤務部局名欄記載の部局に勤務し、いずれも県職組の一般組合員であつた者であるが、同表「職務放棄時間」欄記載のとおり職務を放棄して同盟罷業を行い、うち一部の原告らについては、更に同表「ピケツテイングの有無」欄記載のとおりピケツテイングを行つた。

(五一) 原告城戸智惠弘

同原告は、本件争議行為当時、県職組書記長として組合業務に専従していた者であるが、

(1) 県職組本部役員たる書記長として、本件争議行為に際し、同本部役員であるその他の原告らと共謀のうえ、(一)(1)の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)と同じ各行為をした。

(2) (一)(2)と同じ。

3  以上のとおり、原告らは被告らの再三にわたる注意、警告を無視して争議行為を企て、その遂行を共謀し、組合員をそそのかし、あおり、あるいは自ら争議行為を行つた。そして、本件争議行為は地公法三七条一項により禁止された違法な争議行為である。よつて原告らの行為は地公法三二条、三五条及び三七条一項(但し、原告阿部国人、同村上任、同林田正幸、同吉井研介、同沢村寿三郎、同寺本勝及び城戸智惠弘については、同法三二条及び三五条を除く。)に違反し、同法二九条一項に該当するので、被告らは、各原告の行為の内容、県職組内における地位等を総合勘案して本件懲戒処分を行つたもので、この処分は、適法かつ妥当なものである。

五  被告長崎県知事の本案前の主張に対する原告らの反論

1  原告阿部、同林田の訴えについて

右各原告が被告主張のとおり本件懲戒処分後任意退職したことは認める。しかし、右原告らに対する本件懲戒処分は行政処分であるから、本件懲戒処分が取り消されない限り、右原告らは、本件懲戒処分がなかつたら得られたであろう未払給与・退職金請求権その他の法律上の権利につき裁判上の救済を求めることができない。右原告らがこのような立場にある以上、本件懲戒処分の取消を求める法律上の利益を有することは明らかである。そして、右の結論は、本訴提起が右原告らの退職後一年または二年を経過しているからといつて異なるものではない。また、本訴提起が本件懲戒処分後三年以上を経過しているからといつて、行政処分の法的安定性を害したり信義則に違反するようなことは全くない。

2  戒告処分取消の訴えについて

戒告も、それが公務員の職務上の義務違反に対して科せられる制裁であることにおいて、免職、停職または減給と異なるところはなく、戒告処分そのものが当該公務員個人の権利利益に対する直接の侵害となるものと言わねばならない。地公法もこの理を認め、戒告その他の懲戒処分を不利益処分の典型的なものとして、審査請求及び取消訴訟の提起ができる旨規定している(四九条、四九条の二、五一条の二)。ましてや、長崎県職員は、戒告処分を受けた場合には県条例人事委員会規則等により昇給その他につき財産上の損害を受けることとなつているのであるから、戒告が当該職員の市民法上の権利義務に関係しないなどとは到底いうことができない。なお、地方公務員関係を特別権力関係論で説明するのは誤りであり、現行法上特別権力関係論を地方公務員関係に持ち込む余地はない。

六  抗弁に対する認否

1  抗弁1記載の事実中、本件統一行動の目的にベトナム反戦が含まれていたとの点は否認するが、その余の事実は認める。

2  同2について

本件争議行為当時、別紙原告目録一ないし一三及び六四記載の原告らが被告ら主張の如き職務内容を有する県職組本部の役職にあり、同目録一四ないし四九記載の原告らが被告ら主張のとおり県職組支部の役職にあり、その余の原告らが別表記載の勤務部局に勤務していたことは認める。

(一)(1)、(二)(1)ないし(3)、(三)(1)(3)、(四)(1)ないし(4)、(五)(1)(2)、(六)(1)ないし(3)、(七)(1)、(八)(1)(3)、(九)(1)、(一〇)(1)(3)、(一一)(1)、(一二)(1)(3)、(一三)、(一四)ないし(一六)の各(1)ないし(4)、(一七)(1)ないし(3)、(一八)(1)ないし(4)、(一九)(1)ないし(3)、(二〇)ないし(二二)の各(1)ないし(4)、(二三)ないし(二五)の各(1)、(2)、(二六)(1)ないし(4)、(二七)(1)(2)、(二八)(1)ないし(3)、(二九)、(三〇)の各(1)(2)、(三一)(1)ないし(4)、(三二)(1)ないし(3)、(三三)(1)ないし(4)、(三四)(1)ないし(3)、(三五)(1)(2)、(三六)(1)ないし(3)、(三七)ないし(三九)の各(1)(2)、(四〇)(1)ないし(3)、(四一)(1)ないし(4)、(四二)ないし(四九)の各(1)(2)記載の各事実はいずれも認める。

(三)(2)、(七)(2)、(八)ないし(一二)の各(2)の各事実中、当該原告らが、一〇月二一日職務を放棄し、同盟罷業を行つたことは認めるが、その職務放棄時間を争う。

同2の事実中、その余の事実はすべて否認する。

七  原告らの主張

1  本件賃金闘争に至る経緯

(一) 公務員の賃金闘争

敗戦直後、労働者は労働基本権を保障され、生活の危機からその生存を守る労働者の要求は急速に労働組合運動へと発展したが、地方公務員については他の民間労働者と同様に賃金その他の勤務条件を労働基本権の行使によつて決定していくことが当然視されていた。ところが、昭和二三年七月二二日マツカーサー書簡に基づいて政令二〇一号が制定され、更に地公法等の改正により政令二〇一号と同一内容の規定が法文化されて、これがそのまゝ現行法となつてしまつた。

昭和二四年一二月五日日本官公庁労働組合(以下「官公労」という。)が結成されたが、第一回以降の人事院勧告を無視してきた政府に対し、争議権を剥奪された公務員の賃金要求は、陳情行動を中心とした集会等にとゞまつた。その後の昭和三四年一一月国公地公共闘会議(後に公務員共闘会議と名称を変更、以下「公務員共闘」という。)が結成され、公務員の賃金闘争が本格的に展開されることとなつた。公務員共闘は、昭和三五年第一次賃金闘争に立ち上り、政府との交渉を続けた結果、人事院からは一二・四パーセント、平均二、六八〇円の賃金引上げ勧告を引き出し、それ以後、政府は、昭和三九年の第五次賃金闘争まで人事院勧告の金額についてはそのまゝ実施したが、人事院が毎年五月から給与改訂を実施すべきであると勧告したにもかゝわらず、一〇月実施に固執し、昭和四一年度における第七次賃金闘争(本件賃金闘争)に至ることとなるのである。

(二) 本件賃金闘争

昭和四一年八月二六日から同月二九日までの自治労第一五回定期大会において、人事院勧告の完全実施及び地方財源の確保の二項目が実現されない場合には、始業時より一時間の統一行動を行う旨の提案がなされこれが承認された。右決定に基づき、県職組執行部は、九月三日以降討議を経たうえ、同月二〇日から二二日までの県職組第二四回定期大会において、前記二項目の要求が実現されない場合には一〇月二一日始業時より一時間の統一行動を行う旨の提案をし、右提案は代議員による討議の結果全員一致で承認され、その後右決定に基づいて一〇月六日各支部、分会ごとに組合員による批准投票が実施され賛成多数により批准された。そして被告らに対しては、県職組は、一〇月一三日には統一行動実施を通告し、合わせて統一行動回避のため組合要求実現に当局として最善の努力をされたい旨の要請を行うなど組合として可能な限りの回避の努力を続けてきたが、被告らは何ら誠意ある態度を示さなかつたため本件統一行動が実施されたものである。

2  本件懲戒処分の違憲性、違法性

(地公法三七条一項は憲法二八条に違反する。)

(一) 公務員にも争議権の原則的保障は当然である。

憲法二八条は、労働基本権(団結権、団体交渉権及び争議権)を基本的人権として保障することを宣明している。

ところで、労働基本権はこの憲法二八条により初めて労働者に基本的人権として保障されたものであると言われることがある。しかしながら、労働基本権は、他の基本的人権のすべてがそうであるように、まさしく「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」にほかならないのである。労働基本権が憲法二五条による生存権保障と深い関係のある権利であることは明らかである。しかし、その生存権的側面を強調するのあまり、労働基本権特に争議権が本来有していたはずの自由権的側面即ち勤労者の要求する勤務条件下でなければ「働かない自由」を忘れてはならない。特に、自由権的基本的人権としての性質を無視して、労働基本権を単純に財産権保障と対置させたり、また、生存権の保障が別に確保できるならばその手段的権利である争議権は制限されてもやむをえないとか、争議権は、表現の自由などの自由権的基本権より広く制限が認められてよい、などの安易な労働基本権制限理論を採用する等の誤りを犯してはならない。

(二) 公務員も労働者であり、原則的な争議権保障が重要かつ不可欠である。

もともと、労働者の労働者たる所以は、労働力を売ることによつて得られる賃金に生存の基礎を置くものであることに存する。その意味では、ほとんどの公務員は正に労働者であり、判例上も公務員が労働者であることは確立している。ところで、公務員の労働者性を認めるとしても、公務員を民間労働者とは異なる特殊な労働者と考える考え方があるが、しかし、公務員も民間労働者と本質的には何ら異ならない。このことは、賃金実態面における公務員と民間労働者との類似性、公務員自身の労働者意識の定着化、勤務関係における公務員と民間労働者との同質性等からしても明らかである。

(三) 地公法三七条一項は憲法二八条に違反する。

地公法三七条一項の規定は、文理解釈上は、すべての地方公務員のいかなる争議行為及び怠業的行為をも一律全面的に禁止しているものとしか理解できない。このような地公法による争議行為の一律全面禁止は、基本的人権といえども内在的制約があるとの立場に立つとしても、許さるべき措置とは到底思われない。労働者にとつて重要かつ不可欠の基本的人権である争議権のこのような否認の仕方は、そのこと自体憲法二八条に違反すること明らかである。

最高裁判所は、東京中郵事件判決(大法廷昭和四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九〇一頁)において、労働基本権に対する制約が憲法違反とならないためには、特に四つの事項が考慮されなければならないとしたが、それによれば、第一に、制限は必要やむを得ない場合においてのみ考慮されるべきである、第二に、制限は必要最少限度でなければならない、第三に、制限違反者に対する不利益が限度を越えてはならない、第四に、制限するについては、代償措置が必要である、ということである。以下地公法三七条一項につき右条件適合性を検討する。

一口に地方公務員といつてもその職種は千差万別であり、また、地方公務員の争議行為の態様についても極めて多種多様のものがありうる。しかるに、地公法三七条一項は、このような多種多様の地方公務員の、かつ、多種多様であるその争議行為について、一律全面禁止の措置をとつている。したがつて、右法条は、労働基本権制限が、必要やむを得ない場合においてのみ考慮された制限でなければならないとする条件に違反するものと言わなければならない。

次に、地方公務員の争議行為による地域住民に対する影響を避けるための具体的方策としては、全部禁止という手段に至るまでには、斡旋、調停、仲裁による争議行為回避、更には一定の争議行為の一部禁止などがありうる。しかるに、地公法三七条一項は、一律全面禁止という措置を採用しており、右法条が、労働基本権の制限は合理性の認められる必要最少限度の制限でなければならないとする条件にも違反していること明らかである。

更に、地公法三七条一項は、争議行為禁止違反という名の下に、不当な民事上、刑事上の制裁を可能なものとしているのであるから、これは不利益制裁についての必要最少限度の原則の趣旨にも反する。また、同法条は、争議行為禁止に見合う代償措置が講じられた争議制限規定ともいえない。代償措置としてあげられることの多い身分保障制度とか給与等の勤務条件条例主義などは、もともと争議権制限の代償措置とはかゝわりのないものである。代償措置的なものは、人事委員会の勧告制度程度であり、これとても委員会の委員は地方公共団体の長の一方的任命によるものとされ、かつ、勧告につきその実効性を担保とする法的保障がないことなどから、実際上も代償措置といえるものではない。したがつて、地公法三七条一項は、この点においても前記条件に違反するものといわざるを得ない。

〔公務員の労働基本権を否認する根拠としての財政民主主義、勤務条件法定(条例)主義論について〕

右のうち、財政民主主義論については、議会制民主主義、財政民主主義が、基本的人権に無条件に優越するとする立場にあることは明らかである。たしかに、国民の代表機関である国会が「国権の最高機関」と位置づけられるのは、わが憲法の基本的原理である。しかし、このことは、この原理が憲法上の他の原理をも凌駕することをたゞちに意味しない。財政民主主義を公務員の労働基本権否認の根拠として肯定するならば、およそ財政支出を伴う国民の基本権保障は財政民主主義によつてすべて否認される可能性を有することとなる。財政民主主義論を前提にしても、予算案の提出権は政府が有していること、そして、議院内閣制をとるわが国の議会制民主主義の現実では、国会の多数党から政府が選出されることとなるので、政府の意思によつて公務員の勤務条件を改善することが、国会の財政についての議決権を侵すことなく可能であることはいうまでもない。また、財政についての国会の議決も細目についてまでなされるわけではないから、細目については政府において相互に流用しうる。この点からみても、財政民主主義に触れることなく使用者たる政府の努力によつて公務員の勤務条件を改善する余地がある。そして、以上のことは、地方公務員と地方議会、地方公共団体当局との関係についても同様である。

次に、勤務条件法定主義論については、財政民主主義論についての批判がほゞ妥当するが、なお憲法七三条四号についていえば、右規定は国家公務員に関する事務が内閣の所管に属すること及び内閣がこの事務を処理する場合の基準が立法事項であつて政令事項ではないことを明らかにしたに止まり、勤務条件に関する基準が逐一法律によつて定められるべきことを憲法上の要請として定めたものではなく、法律で大綱的基準を定め、その実施面における具体化につき一定の制限のもとに内閣に広い裁量権を認めたものであつて、公務員の労働基本権を制約しようとするものではない。

地方公務員の勤務条件決定手続の実情をみても、民間企業の場合と基本的には同じく、労使交渉により決められている。即ち、まず組合側から一定の要求を出し、これをめぐつて労使交渉を重ね、交渉が難航する場合、組合側は争議戦術を配置して交渉を煮詰め、労使双方譲歩すべきところは譲歩して妥結に至るその過程は、民間企業の労使交渉と異なるところはない。相異点は確定の時期の差異だけであるが、この点も議会が労使交渉による妥結内容を尊重することが永年の慣行として確立しているため、実際上はなきに等しいとさえいゝ得る。

〔市場抑制力欠如論について〕

まず、公務員の場合、使用者にロツクアウトの対抗手段がないとの点であるが、これは、現行法上公務員の争議権が一切禁止されているため、制度上その必要なしとして認められないだけのことである。しかも、民間企業においても、ロツクアウトは極めて例外的な対抗手段に過ぎないのであるから、この点を地方公務員の争議権否認論の根拠とすること自体相当でないといわねばならない。

次に、民間企業にあつては倒産の危険もあり、労働者側も過大な要求を出さないが、公務員の場合は異なるとの点は、実態を無視した議論であると言わねばならない。特に本件統一行動は人事院勧告完全実施という悲願に基づく一時間という短時間の行動にすぎないのである。

いわゆる市場の抑制力不在論も争議行為全面禁止の論拠になりえない。特に地方公務員の場合、地域住民の動向によつて大きく抑止機能が発揮され、この点民間企業よりはるかに強力な制約効果が発揮されていることは明白である。

(四) 後述のとおり、世界の主要資本主義国においては、労働基本権の保障は拡大の傾向にあり、官公労働者に対してもこれを基本的に保障する傾向に向つているが、この点からみてもすべての地方公務員のすべての争議行為を一律全面的に禁止している地公法三七条一項が憲法二八条に違反すること明らかである。

(地公法三七条一項は憲法九八条二項に違反する。)

(一) 主要資本主義国においては、労働基本権の保障は拡大の傾向にあり、官公労働者に対してもこれを原則的に承認する方向に向つているが、世界の右のような傾向を示すものに国際労働機構(ILO)の諸条約、諸決議、諸報告がある。そして、わが国が既に批准しているILO八七号条約、九八号条約等が憲法九八条二項に規定する条約として国内法を拘束することは当然であるほか、ILOによつて普遍化された原則、見解は右法条にいう確立された国際法規としての効力を有し、国内法もこれに拘束されると解すべきである。

(二) ところで、わが国も批准しているILO八七号条約は、少なくとも軍隊、警察以外の一般公務員には争議権が原則的に保障されなければならない旨規定しているものと解される。また、ILOは、昭和三八年に至つて公務員の労働及び勤務条件に関する専門家会議を理事会で新設し、こゝではじめて公務員労働者の労働問題について討議することとなつた。この会議では、結論として、広く公務員に団結権と団体交渉権を認めた上で、労使紛争の解決として、任意的調停及び仲裁に関する第九二号勧告(昭和二六年)を公務員にも適用すべきだとしている。右九二号勧告による調停及び仲裁は、同盟罷業権をいかなる方法でも制限するものではないとしていることから、争議権を前提としての調停及び仲裁であることは明らかであり、この勧告の適用を認めることは、即ち公務員にも争議権を認めたこととなる。ILOにおいては、昭和四六年、理事会により労使による第一回目の公務合同委員会が招集された。右委員会では、主として、公務における結社の自由等が協議されたが、そこでは、九八号条約六条にいう「公務員」とは国の行政に従事する者で、その者の活動が国家の現実の行政に関係している官史をいうとし、現業公務員と地方公務員は右に含まれないことが決議され、更に、「俸給その他の雇用条件の改善を獲得するために、雇用主たる当局に圧力をかけるために労働を引き上げることを公務員が決定したという状況に対し、これをとりあつかうのに制限的な性質の法規は必要でも効果的でもないことを認めた」旨決議して、慎重な表現ながら争議権を認めている。昭和五〇年には、第二回専門家会議が開催され、そこでは公務員にも争議権があることを前提として、そのような手段を行使させないために仲裁、あつせんのための機関が設けられるべきことが提案されている。そして、昭和五三年には「公務における団結権の保護及び雇用条件決定の手続に関する条約」を採択し、そこにおいては、ごく少数の特殊の公務員を除き、大多数の公務員には民間と同様に団結権、団交権及び協約締結権があることが明らかにされた。その他ILO結社の自由委員会等によつて表明されているILOの争議権に関する原則、見解は、公共業務といえども一律に争議権を剥奪すべきではないし、争議権剥奪については完全な代償措置が要求されるという原則に立つものであるが、地方公務員の争議権剥奪の代償措置が不完全なものであることは前述のとおりである。そして公共業務についての右の原則は、国際労働法上も争議権についての確立された国際法規であるということができる。

(三) 以上のとおり、地公法三七条一項は、すべての地方公務員につき一律に争議行為を禁止した点においても、完全な代償措置なく地方公務員から争議権を剥奪した点においても、憲法九八条二項に違反する無効な規定であるといわねばならない。

(本件統一行動は地公法三七条一項に該当しない。)

本件統一行動は、原告ら地方公務員の給与についても事実上密接な関係を有する人事院勧告の完全実施を目的として、やむを得ず行われた団体行動である。また、その行動の実態も始業時の午前八時三〇分から僅か一時間の職場離脱の形をとり、国民生活への支障などは全く想定されないものであり、かつ、結果的にも国民生活への支障といえるほどのものは全くなかつた。このような本件統一行動は、たといそれが争議行為に該当するとしても、地公法三七条一項によつて禁止されない正当な組合活動である。

(本件懲戒処分は懲戒権の濫用である。)

(一) 地公法二九条に基づく懲戒処分は、任命権者に裁量権が認められているとしても、その裁量は恣意にわたるものであつてはならないことは勿論、合理的で妥当なものであることを要する。しかるに、本件懲戒処分は、原告らが本件統一行動に至つた経過、目的、態様、国民生活に及ぼした影響等の事情に照らすと、明らかに苛酷にすぎるものであり、また他の懲戒処分例と対比しても公正な考慮に基づくとは到底考えられないものである。しかも、本件懲戒処分は、手続的にみても原告ら被処分者の利益保護のための配慮を全く欠いている。したがつて、本件懲戒処分は、被告に与えられている懲戒権の範囲を逸脱し、これを濫用したもので、違法である。

(二) 目的の正当性

本件統一行動は、当時劣悪な賃金、生活実態のもとにおかれていた原告らを含む公務員労働者の、せめて人事院勧告だけでも完全に実施してほしいとの最少限の切実な要求に根ざしたやむにやまれぬ行動であつた。

昭和二三年に公務員の争議権が剥奪されて以来、その代償として設けられた人事院制度は、代償機能を果たさなかつたばかりでなく、逆に公務員賃金を抑制し、それを通じて日本の労働者全体の賃金を抑制する役割を果たしてきた。政府は、人事院勧告を昭和二三年一二月の第一回勧告から昭和四四年まで二〇年間にわたり一度も完全には実施せず、この間昭和二九年から昭和三四年までは賃金引上げの勧告すら行われなかつたのである。こうした中で昭和三五年に公務員共闘が結成され、全国的な要求行動が強められた結果、人事院は同年より実施時期を明示した賃上げ勧告を毎年行うようになつたが、政府は実施時期を遅らせ続けてきたため、原告らは本件統一行動を行つたもので、その目的は当然すぎる正当な要求実現のためであつたのである。

(三) 本件統一行動の手続面における正当性

本件統一行動の実施については、自治労第一五回定期大会及び県職組第二四回定期大会とそれぞれ組織の最高議決機関である大会において決定され、更にそれぞれの規約に基づき全組合員による直接無記名投票を実施して、全構成員の過半数の支持によつて決定したもので、正当な内部的手続を経、組織の最高意思として決定されたものである。したがつて、単純参加者を除く県職組の各級機関役員である原告らが、組合員への周知徹底を図り、統一行動を成功させるため最大の努力をすることは当然であり、それは組合活動に通常随伴する行為である。被告らが「あおり」「そそのかし」として主張する機関紙等の配付は、組合の日常活動として随時実施している行動にすぎない。

(四) 本件統一行動の態様

本件統一行動は、始業時から一時間の極めて短時間のものであり、このことは被告も十分認識していた。

原告らは、庁舎付近における集会を原則とし、集会を開けない場合は自宅待機九時三〇分出勤と定めた。職場集会は本庁等主要な職場で開くことができなかつたが、壱岐支庁等四〇以上の職場で集会が開かれ、一七、八の職場で自宅待機が行われ、約一、〇〇〇名の県職組員がトラブルもなく、整然と統一行動に参加した。これらの職場では、統一行動参加者は九時三〇分までに職場に復帰し、執務に当つている。

本件統一行動におけるピケツテイングの目的は、第一に、被告らが当日どのような妨害行為をとるか判断できず、その出方に対応できる体制をとつたものであり、第二に、被告らが行うであろう一般組合員に対する懲戒処分を最少限度にとゞめるための配慮に基づくものであつた。ピケツテイングに当り各出入口に原告ら各級機関役員を責任者として配置したことからも明らかなように、ピケツテイングは組合員に対する平和的説得に主眼があつた。

(五) 本件統一行動によつても業務に重大な支障はなかつた。

原告らは本件統一行動に当つて、県民生活に与える支障を最少限に止めるべく最大の配慮を行つている。各職場とも二名以上は指定されている管理監督職員については無条件で入庁を認め、病院関係については各病棟毎に保安要員を配置し、児童福祉施設については事務職員を除いて全員を保安要員とする等を基準としながら、それぞれの職場の特殊事情に応じて対応し、一時間という短時間の統一行動であり、業務に大きな支障はないとの判断に立ちながらも、支障を最少限度にとゞめるため必要以上の配慮を払つてきた。

その結果、本件統一行動によつては、県の業務遂行及び県民生活に重大な支障はなかつたのである。

(六) 本件懲戒処分は不当に苛酷で不公平な処分である。

(1) 昭和四一年一二月二一日付で行われた本件懲戒処分は、全国四六都道府県中最も早い時期の処分発令であり、他府県に比しても重い部類に属する処分であつて、その内訳は停職三、減給三二、戒告四六計八一名で、訓戒は九〇名となつており、報告書で氏名を報告された本部、支部役員は全員戒告以上の処分を受けている。県職組の最高責任者である原告阿部國人は停職三月であつたが、同時期公用車を飲酒運転して事故を起した県職員に対する懲戒処分は、停職二月にすぎなかつたのである。

ところで、県職員が懲戒処分を受けた場合、戒告及び減給においては三月、停職の場合は最低九月自動的に昇給延伸が行われ、退職時までその不利益は年々蓄積されてゆく。原告西島(旧姓飯田)妙の場合を例にとれば、本件統一行動参加で戒告、昭和四三年一〇月八日の統一行動参加で減給と二回の懲戒処分を受け、それぞれ三月計六月の昇給延伸を受けているが、三二歳の現在から六〇歳まで在職するとすれば、右昇給延伸による経済的不利益は金一五〇万円を超えることとなる。そして、昇給延伸による経済的不利益は、在職期間中にとゞまらず、退職手当、退職年金更には遺族年金にまで及ぶのである。

(2) 本件懲戒処分には以下に述べるとおり極端な不均衡があり、合理的基準のない恣意的処分であると言わなければならない。

(ア) 原告西島妙、訴外浅山敏三の両名はいずれも本件統一行動に一組合員として参加したにすぎない。しかるに原告西島妙は戒告処分を受け、浅山敏三は訓告を受けたにすぎない。単純参加者については、原告西島妙、同大石智子、同千手喜久子、同広佐古タヅ子、同荒木勝義、同犬塚堅志郎、同紀内隆邦、同岡田千春及び訴外人二名の合計一〇名の本庁参加者のみが戒告処分を受け、本庁以外の職場での単純参加者は九〇名が訓戒の外は何らの措置もとられていない。

(イ) 北松職業訓練所における本件統一行動参加者は、原告安永正美他九名であるところ同原告についてのみ戒告処分がなされ他は訓告ですまされており、同一職場、同一行動参加者に対する不均衡な処分が行われている。被告長崎県知事は、同原告が「あおり」「そそのかし」行為を行い、統一行動当日県北福祉事務所でピケツテイングを行つたと主張しているがそのような事実はない。県職組北松支部執行委員としての機関責任を追及したとすれば、県職組大瀬戸支部書記長の石橋俊太郎が口頭注意にとゞまつているのに比し不合理である。

壱岐支庁においては、多数の組合員が参加して統一行動が行われたにもかゝわらず、原告土谷仁、同岡部義朗、同川野浩一、同山内敏生、同中尾稔昭、同長谷川資洋、同立石吉一及び訴外上田信一郎、同山内清敦、同若村勇の支部役員一〇名が減給又は戒告の処分を受けたが、右の者以外は何らの処分も行われていない。

県北振興局勤務の訴外永木正徳、同森田一義、同平本宏及び同森山吉次、佐世保県税事務所勤務の訴外平尾政一らは、いずれも県職組佐世保支部執行委員等として原告水野尾武成、同東原弘泰及び訴外広田肇と協力して本件統一行動当日は同一行動をとつている。しかし、懲戒処分の対象となつたのは原告水野尾武成、同東原弘泰及び訴外広田肇の三名のみで他は不問に付されている。

その他吉井療養所、総合農林センター等の各職場において多数組合員が本件統一行動に参加したが、懲戒処分を受けたのは原告らに限られ、その基準も明確でない不公平な処分が行われている。

(ウ) 原告城戸智惠弘は、本件統一行動当時県職組書記長として専従していたが、所属は教育庁で、任命権者は被告長崎県教育委員会である。同原告は本件統一行動により停職一月、昭和四三年一〇月八日の統一行動で同三月、昭和四四年一一月一三日の統一行動で戒告の各処分を受けているが、同被告の任命権下にある長崎県教職員組合及び長崎県高等学校教職員組合も右同様統一行動を実施し、参加組合員を対象とする懲戒処分が行われたが、専従役員に対する処分は行われていない。

(エ) 県職組は、本件統一行動と同じく「人事院勧告の完全実施」を要求して昭和四三年一〇月八日及び昭和四四年一一月一三日それぞれ始業時一時間の統一行動を実施したが、それに対する懲戒処分は、次のとおり同一目的、同一時間帯の統一行動に対する同一任命権者による処分とは考えられないほど極端な差異がある。

本件統一行動

停職三名、減給三二名、戒告四六名計八一名

昭和四三年一〇月八日の統一行動

停職一八名、減給一〇六名、戒告一二六名計二五〇名

昭和四四年一一月一三日の統一行動

戒告六名のみ

以上のとおり、本件統一行動の目的の正当性、それに至る経緯、態様、影響及び本件懲戒処分の苛酷性、不公平性からすれば、本件懲戒処分は、懲戒権の範囲を逸脱し、かつそれを濫用したものとして違法であり、取消を免れない。

八  原告らの主張に対する被告らの反論

1  地公法三七条と憲法二八条

(一) 最高裁判所は、昭和四八年四月二五日の全農林警職法事件判決において国家公務員法九八条の、昭和五一年五月二一日の岩手県教組事件判決において地公法三七条の、昭和五二年五月四日の名古屋中郵事件判決において公共企業体等労働関係法一七条の、各争議行為の全面一律禁止の規定について合憲の判断を示しており、これらの判決は、その後の最高裁判所判決においても維持され、また下級審判決においても数多くの合憲判決が続いており、判例として定着している。

(二) 原告らは、右合憲判決は、地方公務員が労働者であることを無視したものであると非難する。しかし、右判決は、地方公務員が憲法二八条の勤労者に該当することを前提としながら、その職務の公共性、勤務条件法定主義等から争議行為の一律全面禁止を合憲としたものであつて、原告らの非難はあたらない。

(三) 次に、原告らは、右合憲判決は、地方公務員の勤務条件決定手続の実態を無視したものであるという。しかし、長崎県が県職組との間に県職員の勤務条件について交渉に応じているのは、職員団体の交渉権を尊重しているからに外ならず、交渉の結果が直ちに法的に県職員の勤務条件の内容となるものではない。原告らは、交渉の結果の条例化は形式的なものであると主張するが、県職員の雇傭者は県民全体であり、県職員は県民全体の奉仕者であることを無視した議論である。

(四) 更に、原告らは、人事委員会制度が代償措置としての機能を果たしていないと主張する。しかしながら、右制度が代償措置として十分の機能を果たしていることは、最高裁判所が昭和五三年九月七日の静岡市教組事件判決(最高裁判所裁判集民事第一二五号三七頁)において判示しているとおりである。そして、これら代償措置の結果、地方公務員の給与は民間労働者のそれと大差のないものとなつており、地方公務員の勤務条件中、休日、休暇なども民間企業労働者と酷似しているのである。

(五) ILOや諸外国の動向と憲法二八条

ILOにしろ諸外国にしろ、公務員の争議権は、一九六〇年代に入つてからその承認を求める要求が強くなつた権利であるところ、原告らの主張するように右要求に対するILO等の対応に合わせてわが国の憲法も解釈すべきであるとすれば、わが憲法が何を保障しているかは諸外国の動向によつて補充されてゆくという結論にならざるを得ないが、このような結果が容認できるものでないことは明らかである。一つの国家が、国外の動向に応じて国内法制を変更するには、その国民の総意により国会の承認を経て立法により変更すべきものであり、公務員の争議権保障に関するILOや諸外国の動向は、憲法二八条の解釈と直接の関連はないと言わなければならない。

2  地公法三七条と憲法九八条

ILO八七号条約は、軍隊、警察を除く公務員に適用されるが、同条約は公務員の争議権を保障してはいない。次に、同九八号条約は、その適用される範囲につき第六条の「公務員」をどのような公務員とみるかについては争いがあるけれども、同条約が争議権についてふれていないことも条文に明らかである。そして、公務員にも争議権を認めるべきであるとのILOにおける労働者側の動きが一九六三年の専門家会議以降強まつていつたが、これも一九七八年の公務条約に至つて成功しないまゝ決着がつけられてしまつた。

ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」は、教員の争議権につきその八四条に定めているが、これは条約ではないから加盟国はその条項を適用すべき法的義務を負うものではない。「国際人権規約A規約」もその八条において「同盟罷業をする権利」を定めているが、わが国は署名にあたりこの規定に拘束されない権利を留保している。

以上のとおりで、地方公務員にも争議権を保障すべきとの内容を有し、わが国がこれに拘束された条約、あるいはその他の確立された国際法規は存しないのであるから、地公法三七条一項が憲法九八条にも違反しないこと明らかである。

3  本件懲戒処分の具体的妥当性

(一) 懲戒処分における任命権者の裁量権

任命権者は、懲戒処分が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合及び社会観念上著しく妥当を欠き、警戒権者に任された裁量権の範囲を越えるものと認められる場合を除いては広く裁量権の行使を認められている。ところで、公務員は、全体の奉仕者であり厳格な服務上の義務履行が要求されている。公務員を選定し、罷免することは国民固有の権利であり、任命権者は、国民の信託のもとに国や地方公共団体の機関として公務員に対し公務員としての本分を全うさせるために懲戒権を行使するのである。そして、このような公務員の義務の履行を担保するために、法律による身分保障(地公法二七条)、給与・勤務条件法定主義(同法二四条六項)及び人事委員会による給与勧告制度(同法二六条)が設けられている。このように、公務員は民間労働者に比し手厚い保護を受けているのであるから、公務員の服務上の義務の面からみるならば、厳格な義務の履行が要求されるのは、当然である。

(二) 本件懲戒処分の具体的妥当性

本件争議行為の主目的は、人事院勧告の完全実施及びそのための地方財源の確保であつたが、他方ベトナム反戦等政治目標をも掲げて行われたものであり、被告らからの再三にわたる警告を受けながらもこれを無視して実行されたものである。また、その態様も業務の繁忙を極める早朝始業時より一時間にわたり本庁及び地方機関の全職場において実施されたもので、しかも単に労務の不提供には止まらず、庁舎付近において職場集会を開催するとともに、県の施設二七か所において県職組組合員及び支援団体員約五〇〇名により県職員の登庁を阻止するためのピケツテイングがなされ、その結果県職員約一、六〇〇名が職場において正常に就業することができなかつた。

原告らは、右のごとき本件争議行為を企画、共謀し、あおり、そそのかす等の行為をなし、あるいは自ら争議行為に参加したのであるから、右の諸事情を勘案すれば、本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとは到底いえず、本件懲戒処分が懲戒権者に委ねられた裁量権の範囲を越え、これを濫用したといえないことは明らかである。

第三証拠関係〈省略〉

理由

第一請求原因事実は、いずれも当事者間に争いがない。

第二被告長崎県知事の本案前の主張について

同被告の本案前の申立1記載の原告らのうち、原告阿部國人、同林田正幸が被告主張の日時に任意退職したこと、及び右記載の原告らのうち右原告二名を除く原告ら三三名の懲戒処分が戒告であることはいずれも当事者間に争いがない。

いずれも成立に争いのない甲第一八号証の一ないし三、原告城戸智惠弘本人尋問の結果によれば、長崎県職員は、一二月を下らない期間良好な成績で勤務したときには、一号給上位の号給に昇給させることができることになつているところ、当該期間中に停職、減給及び戒告の処分を受けた者は、その期間中良好な成績で勤務したとの証明が得られないものとして、停職については九月、減給及び戒告については三月いずれも昇給が延伸される取り扱いになつており、右の不利益は、復元されない限り退職するまで継続し、退職の際にも退職一時金の額等にも影響を及ぼすが、本件原告らも、右の基準に従いそれぞれ九月又は三月昇給が延伸されたこと、を認めることができる。そして、原告らは、右経済的不利益を回復するためには、その原因となつた本件懲戒処分が違法であることを確定することが必要であるといわなければならず、この理は、原告阿部、同林田両名が、現在は任意退職しているからといつて異なるものではない。また、本訴は、本件懲戒処分発令後約二年一一月、原告阿部の退職後約一年四月、原告林田の退職後約二年三月をそれぞれ経過した後に提起されたものであるが、そのことのゆえに本訴提起が不適法となるとは解せられない。

なお、戒告処分につき付言すれば、原告らのうち戒告処分を受けた右原告ら三三名も、一般職に属する地方公務員として地公法の適用を受けるが、同法五一条の二は、懲戒処分の取消の訴えは、人事委員会又は公平委員会に対して審査請求又は異議申立をなし、それに対する裁決又は決定を経た後でなければ提訴できない旨を定め、懲戒処分の一としての戒告が取消訴訟の対象となることを明らかにしている。

以上のとおりであり、右被告の本案前の主張は理由がない。

第三本件懲戒処分の処分理由

一  本件争議行為の背景

成立に争いのない甲第一七号証、証人丸山康雄の証言及びこれにより真正に成立したと認める甲第九号証並びに原告林田正幸本人尋問の結果によれば、次のとおり認めることができる。

公務員共闘は、昭和三五年各種公務員団体の連合体として結成され、公務員の労働基本権制限の代償措置としての人事院、人事委員会制度が、その本来の機能を営んでいないとの基本的な認識を前提として(一)政府に人事院勧告を完全に実施させること、(二)人事院による勧告内容を公務員団体の要求に近づけさせること、(三)公務員の労働基本権を回復させること、等を目的として各種の活動を行つていたが、県職組も、自治労傘下の組合として右活動に参加していた。

ところで、人事院勧告は、直接的には国家公務員の給与に関するものではあるが、例年八月に人事院勧告が出されると、一〇月前後には各都道府県でも人事委員会勧告が出され、その内容は人事院勧告に準じるのが通常で、また、人事院勧告を受けて政府による国家公務員の給与に関する決定がなされると、各都道府県もこれに準じる決定をするのが常態であつた(長崎県においてもその例にもれない。)から、国家公務員の給与の決定は、事実上、地方公務員のそれにも強い影響を与えていた。

二  被告ら主張の抗弁事実のうち、本件懲戒処分の概要(原告らと県職組、本件争議行為の経緯)については、本件争議行為の目的に「ベトナム反戦」が含まれていたとの点を除き当事者間に争いがなく、右事実によれば、原告らの行つた本件統一行動は、地公法三七条一項によつて禁止される争議行為にあたるといわなければならない。弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第一号証、乙第二ないし第六号証の成立に争いのない部分、及び証人丸山康雄の証言によれば、本件争議行為の主目的は、第一に人事院勧告の実施時期の完全実施であり、第二に地方財源の確保であつたことが認められる。

三  原告ら各自の具体的違法行為

原告らが、本件争議行為当時、長崎県に勤務する一般職の地方公務員であつたこと、本件争議行為当時、別紙原告目録一ないし一三及び六四記載の原告ら(県職組本部役員)が被告ら主張の如き職務内容を有する県職組本部の役職にあり、同目録一四ないし四九記載の原告ら(県職組支部役員)が被告ら主張のとおり県職組支部の役職にあり、その余の原告らが別表記載の勤務部局に勤務していたこと、はいずれも当事者間に争いがない。

1  県職組本部役員である原告ら

原告目録一ないし一三記載の原告らが、県職組本部役員として、被告ら主張の抗弁2(一)(1)(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)記載の各行為をしたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、右原告らは、本件争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、かつ、あおつたものといわなければならない。

右原告らのうち、原告村上が抗弁2(二)(2)、(3)の、原告松本が同2(三)(3)の、原告林田が同2(四)(2)ないし(4)の、原告吉井が同2(五)(2)の、原告沢村が同2(六)(2)、(3)の、原告西山が同2(八)(三)の、原告川村が同2(一〇)(3)の、原告田端が同2(三)(3)の、各行為を行つたことは、いずれも当事者間に争いがなく、右事実によれば、右各原告はそれぞれ本件争議行為の遂行をそそのかし、あおつたものといわなければならない。

原告松本が同2(三)(2)の、同大石武彦が同2(七)(2)の、同西山が同2(八)(2)の、同多田が同2(九)(2)の、同川村が同2(一〇)(2)の、同西村が同2(一一)(2)の、同田端が同2(一二)(2)の各事実中、本件争議行為当日、職務を放棄し、同盟罷業を行つたことは、当事者間に争いがない。

(原告阿部國人)

証人鳥海喜重郎の証言及びこれによりいずれも昭和四一年一〇月二一日の県庁正面玄関の状況を撮影した写真であると認める乙第二五号証の一ないし四によれば、同原告は、本件争議行為当日午前八時二五分ころ、県庁本庁正面玄関でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告村上任)

証人竹内一雄の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第二八号証、第二九号証の一、並びに証人才津善章の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日の朝佐世保市木場田町所在の長崎県合同庁舎正面玄関前においてピケツテイングをしたことが認められる。

(原告松本和孝)

証人風斗登喜夫の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第三六号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝大瀬戸保健所玄関前でピケツテイングをしたほか、少なくとも始業時の午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つたことが認められる。

(原告林田正幸)

前掲乙第二五号証の一ないし四、証人鳥海喜重郎の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝県庁本庁正面玄関でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告吉井研介)

証人田中敏夫の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四一号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝島原県税事務所玄関前でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告沢村壽三郎)

証人永田七治の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四二号証、証人深堀孝の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四八号証、証人山口博泰の証言(第一回)及びこれにより真正に成立したと認める乙第六〇号証、第六二、六三号証によれば、同原告は、同年一〇月一九日午後五時ころ長崎職業訓練所で、二〇日午前九時ころ中央児童相談所で、いずれも県職員に対し本件争議行為に参加すべく呼びかけたこと、同日午後五時ころには県庁本庁北門において退庁する県職員に対し「もうがまんできません人事院勧告の不当なねぎり」「もうガマンできない実施時期を守らせるため一〇・二一ストライキを決行します」と題するビラを配付したこと、がいずれも認められ、右事実によれば、同原告は、本件争議行為の遂行をそそのかし、あおつたといわなければならない。また、証人中村龍市の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第五六号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝長崎土木事務所でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告大石武彦)

証人田代敏郎の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第五七号証によれば、同原告は、少なくとも本件争議行為当日の午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つたと認められる。

(原告西山俊行)

証人伊折秋好の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第六六号証によれば、同原告は、本件争議行為当日の午後零時五〇分ころ、平戸種畜場を訪れ、同所における午後一時から一時五〇分までの同盟罷業を指導したことが認められ、同原告の勤務する事業場である県庁本庁における同盟罷業時間である午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つたというべきである。被告長崎県知事は、同原告は平戸種畜場における同盟罷業終了時刻まで同盟罷業を行つたと主張するが、同原告の勤務する事業場における同盟罷業が終了した後の不就労は、同盟罷業とは評価され得ないといわなければならない。

(原告多田章)

証人一瀬英章の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第六七号証、証人山口博泰の証言(第二回)及びこれにより真正に成立したと認める乙第七一号証、第七三号証の一、二によれば、同原告は本件争議行為当日朝壱岐支庁における争議行為を指導するとともに同所でピケツテイングをし、少なくとも午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つたと認めることができる。

(原告川村好徳)

証人吉川正吉の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第三五号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝午前八時ころから同八時一五分ころまでは県北福祉事務所でピケツテイングをし、その後午前九時一五分ころまで県北福祉事務所所属の組合員によつて開催された職場大会に参加し、少なくとも午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つたと認められる。

(原告西村利幸)

前掲乙第七一号証、証人中山忠佑の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四〇号証によれば、同原告は、本件争議行為当日午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つたと認められる。

(原告田端市郎)

証人姫野一男の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四七号証によれば、同原告は、本件争議行為当日午前八時ころから八時三〇分ころまで五島支庁表玄関でピケツテイングを行つたあと隣接する市役所構内で開かれた集会に参加し、午前八時三〇分から九時三〇分まで職務を放棄し、同盟罷業を行つたと認められる。

2  県職組支部役員である原告ら

原告目録一四ないし四九記載の原告らが、県職組支部役員として、抗弁2(一四)ないし(四九)の各(1)記載の行為をしたこと、右原告らのうち、原告山中が同2(一四)(3)、(4)の、原告柳辺が同2(一五)(3)、(4)の、原告下崎が同2(一六)(3)、(4)の、原告中村が同2(一七)(3)の、原告高山が同2(一八)(3)、(4)の、原告小森が同2(一九)(3)の、原告浜崎員正が同2(二〇)(3)、(4)の、原告本多が同2(二一)(3)、(4)の、原告井口が同2(二二)(3)、(4)の、原告豊村が同2(二六)(3)、(4)の、原告浜崎満安が同2(二八)(3)の、原告佐藤清が同2(三一)(3)、(4)の、原告北浦一雄が同2(三二)(3)の、原告水野尾が同2(三三)(3)、(4)の、原告東原が同2(三四)(3)の、原告森田が同2(三六)(3)の、原告安永が同2(四〇)(3)の、原告森崎が同2(四一)(3)、(4)の、各行為を行つたことは、いずれも当事者間に争いがなく、右事実によれば、右原告はいずれも本件争議行為の遂行をそそのかし、あおつたものといわなければならない。

原告目録一四ないし四九記載の原告らが抗弁2(一四)ないし(四九)の各(2)記載の行為をしたことは、当事者間に争いがない。

(原告山中次郎作)

前掲乙第六〇号証、証人今村正治の証言により真正に成立したものと認められる乙第五〇号証、証人鳥海喜重郎、同今村正治の各証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝県庁本庁南門でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告柳辺良一)

前掲乙第四二号証によれば、同原告は本件争議行為当日午前八時ころから長崎職業訓練所でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告下崎茂敏)

被告長崎県知事は、同原告が本件争議行為当日長崎県税事務所でピケテイングを行つたと主張するがこれを認めるに足る証拠はない。

(原告高山知明)

前掲乙第四八号証、証人松田良平の証言並びにこれにより本件争議行為当日の県庁本庁北門を撮影した写真であると認める乙第二六号証の六、及び同証人の証言により真正に成立したと認める乙第五一号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝県庁本庁北門においてピケツテイングをしたことが認められる。

(原告小森勝人)

前掲乙第三六号証、証人副島重光の証言により真正に成立したと認める乙第七二号証、同証人、証人風斗登喜夫の各証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝大瀬戸保健所玄関前でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告浜崎員正)

証人平田裕之の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四六号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝諫早総合庁舎正面玄関前でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告本多利久)

被告長崎県知事は、同原告が諫早総合庁舎でピケツテイングをしたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

(原告井口元一)

証人松尾猛俊、同林田辰己の各証言及びこれらにより真正に成立したと認める乙第三三号証の一ないし四によれば、同原告は、本件争議行為当日午前七時五〇分ころ諫早駅付近において県職員に対し、勤務に就くことなく集会に参加するよう説得していたことが認められ、右事実によれば、同原告は、本件争議行為の遂行をそそのかし、あおつたものといわなければならない。

(原告芝田正弘)

証人古藤周二の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第三七号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝諫早保健所でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告立石博)

前掲乙第四〇号証及び証人中山忠佑の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝総合農林センター付近の路上でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告豊村昌敏)

前掲乙第四〇号証、証人中山忠佑の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝総合農林センター付近上でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告渡辺シゲコ)

証人川原新三郎の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四九号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝整肢療育園でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告浜崎満安)

証人牧文夫の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第五二号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝大村保健所正門前でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告浅田謙介)

前掲乙第四〇号証、証人中山忠佑の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝種鶏場でピケツテイングをしたことが認められる。

(原告佐藤清)

被告長崎県知事は、同原告が島原土木事務所でピケツテイングを行つた旨主張するが、証人田中敏夫の証言によれば、同原告がピケツテイングをしたと同被告が認定したのは、本件争議行為当時南高来福祉事務所の総務課長をしていた田中敏夫のその旨の報告書によるものであるところ、同人は直接同原告のピケツテイング参加を現認したわけでも部下に確認させたわけでもなく、本件争議行為当日の午後南高来福祉事務所で、同所所長と島原土木事務所の職員とが雑談している際、同職員から同原告がピケツテイングに参加していた旨偶然聞いた程度で、現認した島原土木事務所職員の氏名も特定できず、これのみでは同原告のピケツテイング参加を認めるには足りず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

(原告北浦一雄)

証人弓井松男の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第三八、三九号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝島原土木事務所でピケツテイングをしたと認められる。

(原告水野尾武成)

前掲乙第二八号証、第二九号証の一、証人財津善章の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第三一号証並びに証人竹内一雄の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝佐世保市内の県合同庁舎正面玄関前においてピケツテイングをしたと認められる。

(原告東原弘泰)

証人竹内一雄の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第二九号証の二、前掲乙第二八号証、第二九号証の一、第三一号証並びに証人財津善章の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝佐世保市内の長崎県合同庁舎正面玄関前においてピケツテイングをしたことが認められる。

(原告森下軍一)

証人嶋谷宏道の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第三四号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝佐世保児童相談所正面玄関付近でピケツテイングをしたと認められる。

(原告森田知隆)

前掲乙第三五号証及び証人吉川正吉の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝県北福祉事務所表玄関前においてピケツテイングをしたことが認められる。

(原告松尾隆藤)

証人山崎信雄の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第六五号証によれば、同原告は、本件争議行為当日朝佐々療養所正門前でピケツテイングをしたと認められる。

(原告北浦祐三、同木村靖)

前掲乙第三五号証及び証人吉川正吉の証言によれば、右原告らは、本件争議行為当日朝県北福祉事務所表玄関前においてピケツテイングをしたと認められる。

(原告安永正美)

前掲乙第三五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第七六号証、証人吉川正吉の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝県北福祉事務所表玄関前でピケツテイングをしたと認められる。

(原告森崎幹、同平田市郎)

前掲乙第四七号証及び証人姫野一男の証言によれば、右原告らは、本件争議行為当日朝五島支庁裏玄関前においてピケツテイングをしたことが認められる。

(原告土谷仁、同中尾稔昭、同山内敏生、同川野浩一、同岡部義朗、同立石吉一、同長谷川資洋)

証人渡辺正の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四五号証によれば、原告土谷仁は本件争議行為当日朝壱岐支庁正門前でピケツテイングをしたこと、前掲乙第七一号証、第七三号証の一、二、証人山口博泰の証言(第二回)によれば、原告中尾稔昭、同山内敏生は同日朝壱岐支庁正門前で、原告長谷川資洋は同日朝同支庁耕地課入口付近でいずれもピケツテイングをしたこと、証人永渕義男の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四四号証によれば、原告川野浩一は、同日朝同支庁裏口付近でピケツテイングをしたこと、証人渡辺寿男の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四三号証によれば、原告岡部義朗は同日朝同庁耕地課入口付近でピケツテイングをしたこと、証人川口哲彦の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第五三号証によれば、原告立石吉一は同日朝同支庁裏口付近でピケツテイングをしたこと、がいずれも認められる。

3  県職組一般組合員である原告ら

(原告荒木勝義、同犬塚堅志郎、同大石智子、同広佐古タヅ子、同千手喜久子、同紀内隆邦、同岡田千春、同飯田妙)

前掲乙第六〇号証、第七一号証、証人山口博泰の証言(第一回)によれば、右原告らは、別表のとおり職務を放棄し同盟罷業を行つたことが認められる。

(原告松尾俊彦、同佐藤隆義、同亀川昭、同小柳美智子)

前掲乙第四〇号証、証人中山忠佑の証言によれば、右原告らは、本件争議行為当日朝総合農林センター付近のバス停留所付近でピケツテイングを行い、原告佐藤は午前八時三〇分から九時二〇分まで、原告松尾、同亀川は午前八時三〇分から九時二五分まで、原告小柳は午前八時三〇分から九時二七分まで、いずれも職務を放棄して同盟罷業を行つたことが認められる。

(原告宮崎大一郎)

前掲乙第三五号証、証人吉川正吉の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝県北福祉事務所表玄関前でピケツテイングをし、午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄したことが認められる。

(原告島尾保)

前掲乙第六五号証、証人山崎信雄の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝佐々療養所正門前でピケツテイングをし、午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄し同盟罷業を行つたことが認められる。

4  原告城戸智惠弘

当事者間に争いのない抗弁1、2(一)ないし(一三)の各(1)の各事実並びに弁論の全趣旨によれば、同2(五一)(1)記載の各事実が認められ、右事実によれば、右原告は、本件争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、かつ、あおつたといわなければならない。

前掲乙第二五号証の二、証人鳥海喜重郎の証言によれば、同原告は、本件争議行為当日朝県庁本庁正面玄関前でピケツテイングをしたことが認められる。

5  以上右に認定した原告らの各行為のうち、本件争議行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつた行為は、地公法三七条一項後段に、ピケツテイングは同項前段にいずれも違反し、同法二九条一項一号に該当し、同盟罷業は、同法三七条一項前段、三二条(法令に従う義務)、三五条(職務専念義務)に違反し、同法二九条一項一、二号に該当することとなる。

第四本件懲戒処分の適否

一  地公法三七条一項は憲法二八条に違反するか

1  地方公務員も自己の労務を提供することにより生活の資を得ている点において、一般の勤労者と異なるところはないのであるから、地方公務員も憲法二八条にいう勤労者にあたるものと解さなければならない。しかしながら、かく解したからといつて、地方公務員の労働基本権が制限されえなくなるものではなく、他の憲法上の要請があれば、それが制限され、あるいは否定されることがあるのは認めなければならない。

2  ところで、憲法二八条の趣旨は、資本主義経済の高度に発達した現代社会の労使関係に契約自由の原則を無条件に適用し、勤務条件の決定を個々の勤労者と使用者との自由な契約に委ねるならば、その経済的基盤の差異等により、勤労者側に苛酷な契約内容となりがちである事実に着目し、勤労者に対する生存権の保障を実効あらしめるため、従来の自由権的基本権の範囲に属しない労働基本権を社会権的基本権として保障し、これにより勤務条件決定過程その他において使用者と対等の立場に立たせようとするものである。したがつて、労働基本権の保障は、勤労者と使用者との間の勤務条件決定手続において契約自由の原則が妥当する場合でなければ意味をなさないこととなるし、また、ここで窮極の目的とされているものは、勤労者の生存権であつて労働基本権そのものではなく、この意味では、労働基本権は本来手段的な権利なのであるから、勤労者の生存権が他の何らかの手段により保障される場合には、代償措置が存することを理由の一つとしてその制限を肯定することも可能であると言わなければならない。

3(一)  まず、非現業の国家公務員につき、その憲法上の地位の特殊性から、労働基本権が重大な制約を受けていることは、次に示すとおりである。

憲法八三条は「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。」と定め、国の財政作用が国会のコントロールに服すべきことを規定しているが、これは、議会は元来国民が不当な負担を蒙ることを避けるため、国の財政作用を適切にコントロールしようとして生れた制度であることからすれば、当然の規定であると言うことができる。ところで、公務員の給与の財源は、国の財政とも関連して主として税収によつて賄われるものであるところから、右の憲法上の要請により、その勤務条件の決定は、すべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、かつ、その決定は立法府における自由な論議を経てなされなければならない。そして、憲法七三条四号は、内閣の事務として「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」をあげ、更に国公法六三条一項は、公務員の給与は法律によつて定められる給与準則に基づいて決定され、これに基づかずにはいかなる金銭又は有価物も支給してはならない旨定めている。このように、公務員の給与その他の勤務条件は、憲法八三条以下に規定する国の財政処理に関する基本原則からの要請により、私企業の場合のように労使間の自由な交渉に基づく合意によつては定められず、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した法律・予算によつて定められることとなつているのである。そうであるとすれば、勤務条件が労使間の自由な交渉による合意で決定されることをその存在の前提とする勤労者の団体交渉権は、公務員に対しては憲法上当然に保障されているものとはいえず、団体交渉過程の一環として予定されている争議権もまた同様であると言わなければならない。けだし、右のような制度上の制約にもかかわらず公務員に争議権を認めるならば、使用者としての政府の権限外の事項についての回答を要求する結果ともなり、ひいては、立法府において民主的な討議を経て決定されるべき公務員の勤務条件決定過程に異質の圧力を加えることにもなり憲法の基本原則である議会制民主主義(憲法四一条、八三条等)に背馳し国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないのである。

右の理は、地方公務員の労働基本権特に争議権の制限についても妥当する。すなわち、地方公務員の勤務条件が、法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によつて定められ、またその給与が地方公共団体の税収等の財源によつてまかなわれるところから、専ら当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によつて決定されるべきものである点において、地方公務員は国家公務員と同様の立場に置かれており、したがつてこの場合には、私企業における労働者の場合のように団体交渉による労働条件の決定という方式が当然には妥当せず、団体交渉の裏付けとして機能すべき争議権も地方公務員に対しては憲法上当然に保障されているとはいえないこと、国家公務員の場合について説示したとおりである。

ところで、原告らは、公務員も憲法二八条にいう勤労者であるから、財政民主主義を理由に公務員の労働基本権を制限することはできず、逆に、財政民主主義の原則は、公務員の労働基本権を保障する方向で民主的統制が加えられるべきであり、また、財政についての国会の議決も、細目についてまでなされるわけではなく、細目は政府の裁量に任されるのであるから、この点につき労使間の団体交渉による決定を認めることは、財政に関する国会の議決権を侵害するものではない、と主張する。しかし、前者については、右主張を認めるならば、国の財政を処理する権限についての国会の議決権を侵害する結果となり、到底採用することはできないし、後者については、なるほどそのような制度を採用する余地はあろうが、それは憲法上保障された制度と解することはできない。けだし、たとい一般的基準の範囲内の事項であるとしても、そのような事項につき、労使間の合意による決定が憲法上保障されていると主張することは、その事項については国会に議決権はないというに帰し、前述した憲法上の原則に副わないと言わなければならないからである。

(二)  また、一般私企業においては、使用者が労働者の過大な要求を受け入れた場合、使用者はそれを製品の価格に転嫁しなければならず、したがつて賃上げには当然に市場の抑制力が働くこととなるが、公務員の勤務条件にはこのような抑制が働かず、争議権は適正な勤務条件を決定する機能を果すことができなくなるおそれがあることをも考慮しなければならない。

(三)  また、公務員は、国民又は地方公共団体の住民全体の奉仕者としての特殊の地位を有し、国又は地方公共団体が国民又は住民に対して負担する公務の遂行を担当するものであつて、このような公務員が争議行為に及ぶときは、直ちに公務の停廃を生じ、国民全体又は地方住民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか又はその虞れがあることも否定できない。

してみれば、地方公務員の労働基本権が地方公務員を含む地方住民全体ないし国民全体の共同利益のため、これと調和するように制限されることもやむをえないところである。

4  ところで、前項において述べたような公務員の労働基本権の保障と矛盾する種々の憲法上の要請があるとしても、その労働基本権は勤労者の生存権保障に由来する権利であることを考慮すれば、それだけでは公務員の労働基本権を制限することはできない。そのためには、労働基本権の保障に代わり公務員の生存権を実効あらしめるための代償措置が用意され、かつ、それが現実にその保障機能を発揮していることが憲法上の要請であると言わなければならないところ、本件争議行為は、いずれも代償措置たる人事院の勧告が政府によつて完全に実施されないことを不満とし、その完全実施を主目標としてなされたものであることは前認定のとおりであるので、以下この点につき検討する。

国家公務員については、その身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件について、その利益を保障するような定めがなされていること、及び公務員による公正かつ妥当な勤務条件の享受を保障する手段としての人事院の存在とその職務権限とを労働基本権制限の合憲性を肯定する一理由としうるので、この点を地方公務員の場合についてみると、地公法上地方公務員にも国家公務員とほぼ同様な勤務条件に関する利益を保障する定めがなされている(地公法二四条ないし二六条など)ほか、人事院制度に対応するものとして、これと類似の性格を持ち、かつこれと同様の又はこれに近い職務権限を有する人事委員会又は公平委員会制度(同法七条ないし一二条)が設けられている。もつとも、このうち特に公平委員会は、その構成及び職務権限上、公務員の勤務条件に関する利益の保護のための制度として、人事院の場合ほど効果的な機能を実際に発揮しうるかどうかにつき問題がないわけではないが、いずれも第三者的な立場の委員を中心として地方公共団体とは別個の組織を有し(同法九条、一二条)、地方公務員の勤務条件に関する利益を保護するに必要な一応の権限を有しており(同法八条、二六条、四七条、五〇条)、これらの点において人事院制度と異なるところはなく、制度上、地方公務員の労働基本権制限の代償措置としての一般的要件を満たしているということができる。ところで、本件争議行為がなされた昭和四一年における公務員の給与に関する人事院勧告は、政府においてその実施時期等の点につき、勧告どおりには実施しなかつたことは後記認定のとおりであるが、実施時期については、昭和四一年は五月一日の勧告を九月一日に、実施したものであるし、給与引上げ率については勧告どおり実施しているのであるから、代償措置としての人事院勧告及び人事委員会勧告がその本来の機能を喪失しているとは未だいい得ず、したがつて、本件争議行為が人事院勧告の完全実施をその主目標としていたからといつて、そのために本件争議行為が憲法上保障された労働基本権の行使であると解することもできない。

5  原告らは、また、主要資本主義諸国においては、公務員に対しても労働基本権を承認しつつあるとし、その根拠として国際労働機関(ILO)の条約、決議及び報告を援用する。たしかに、証人中山和久の証言によれば、公務員の労働基本権保障に関する世界的な潮流は、現在それが保障されているか否かはともかくとして、例外を認めることは当然の前提としつつも、原則的には、公務員に対しても争議権をも含めた労働基本権を保障してゆこうとするところにあることが認められる。

しかし、そのことと、わが憲法が公務員に対し、いかなる程度に労働基本権を保障しているかということとは、直接の関連を有するものではなく、仮に公務員中、職務内容の公共性の程度が低く、その争議行為が国民全体の共同利益にさほどの障害を与えないものについて争議行為を禁止することの当を得ないものがあるとすれば、それは国会自身が政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により立法をもつて定めるべき労働政策の問題であると考えるのである。

6  以上のとおりであるから、地公法三七条一項において地方公務員の争議行為を禁止したとしても、地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のためのやむを得ない措置として、憲法二八条に違反するものではないと言わなければならない。

二  地公法三七条一項は憲法九八条二項に違反するか

前述のとおり、公務員の労働基本権保障に関する世界的な傾向は、原則的には、公務員に対しても争議権をも含めた労働基本権を保障してゆこうとするところにあることは否定することができないけれども、これをもつて確立された国際法規ということは到底できず、他に公務員にも争議権を保障すべしとの内容を有し、わが国がこれに拘束される条約は存しないのであるから、地公法三七条一項が憲法九八条二項に違反しないことは明らかである。

三  原告らは、本件争議行為は、地公法三七条一項によつて禁止されない正当な組合活動であると主張する。しかし、その立論はいわゆる限定解釈論を前提にするものであると解されるところ、公務員に対する争議権禁止の主たる根拠は、前述のとおり、その勤務条件決定手続の特殊性にあるのであるから、その制限の法理は、法律又は条例によつて勤務条件が決定されるすべての公務員のすべての争議行為につき一律に及ぶべきものであつて、公務員の争議行為中、禁止されるものとそうでないものとの区別を認めることはできない。したがつて、右のいわゆる限定解釈論を採用することはできず、原告らの主張はその前提において失当である。

四  本件懲戒処分は懲戒権の濫用であるか

地方公務員の争議行為に対する懲戒処分は、第一次的には任命権者の合理的な裁量に任せられているので、懲戒権者が争議行為禁止規定違反を理由として処分するに当つては、争議行為の規模、態様、その目的、原因、結果のほか当該公務員の争議行為への関与の程度、処分歴、処分が他の公務員及び社会に与える影響等広範囲な事情を総合して、争議行為の違法性の程度に均衡した処分を選択すべきであるから、裁判所が右処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分をすべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものと解さなければならない(最高裁第三小法廷昭和五二年一二月二〇日判決、民集三一巻七号一、一〇一頁参照)。ところで、前示のとおり、地公法三七条一項が地方公務員に対して争議行為を禁止している最も重要な根拠としては、財政民主主義にあらわれた議会制民主主義を挙げているのであり(国民に対する生活上の支障の防止との点は、立法府が立法に当り地方公務員を含む地方住民全体ないし国民全体の共同利益の擁護という見地から考慮すべき事情の一つとしているに過ぎない。)、地方公務員の職務に公共性があり、争議行為の国民に対する生活の支障を防止するとの立場は採用していないので、争議行為の違法性の程度といつた情状は、その国民生活に対する影響がどの程度であつたかという観点からではなく、争議行為の規模、態様等といつた点を中心として決定すべきである。

右の見地に立つて、以下本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められるかどうかについて検討するに、たとえ同種又は類似の行為に対する処分であつても、処分の種類等を選択するに当つては、前挙示の如き多くの事情が総合的に考慮されるのであり、しかも、これらの事情のうち、どの事情にどの程度の比重をおいて処分の程度をきめるかといつたこと(当該公務員の行為の前後における態度、当該公務員の勤務部局の所掌事務の範囲及び権限―中枢部局か出先部局か―等も右事情に含まれる。)、ある年度において、違法な争議行為の参加者の処分について、懲戒権者が厳罰をもつて臨むかあるいは緩やかな処分にとどめるかの選択に当つては、社会情勢、各公共団体の労使関係等諸般の事情を考慮すべく、年度、公共団体が異なれば右各事情が異なつてくるのは当然であり、このような事情をどのように評価するかといつたことは、かかる事情に通暁した裁量権者の裁量にまかされているといわねばならない。

ところで、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第二一号証の一ないし三、成立に争いのない乙第八五号証の二、証人鳥海喜重郎、同山口博泰、同吉村康雄の各証言(証人山口博泰、同吉村康雄についてはいずれも第一回)及び原告林田正幸本人尋問の結果によれば、次のような事情が認められる。

本件争議行為は、日本労働組合総評議会・中立労働組合連絡会議の指導下に全国、全産業を対象として行われ、私企業の組合、国家公務員の職員団体はほとんど脱落したものの、争議行為参加者は全国で約五〇万人にのぼり、中でも日教組及び県職組の加盟している自治労は積極的に活動し、自治労の争議行為の規模は三〇数県、約二三〇市、約一九〇町村、勤務時間内職場大会参加者約二一万人であつた。

県職組は、(一)原則として全職場で一時間の同盟罷業を行う、(二)本庁及び総合庁舎においては一時間の職場大会を開催する、(三)職場大会を開催するところでは支援労組員らにピケツテイングを求める、(四)全職場とも管理職員は入庁させ守衛等は保安要員として争議行為の対象から除外する、等の実施要綱に基づいて本件争議行為に臨み、その結果、本庁はじめ主要な事業場で参加者が少数であつたため職場大会を開催することができなかつたものの、地公法の適用を受ける一般職員約五、一〇〇名(うち組合員約三、八〇〇名)及び地方公営企業労働関係法の準用を受ける単純労務職員約七五〇名(うち組合員約七三〇名)のうち、一般職員約三九〇名、単純労務職員約九〇名合計約四八〇名の県職員が本件争議行為に参加し、県職組の一一支部のうち対馬支部を除く一〇支部において同盟罷業が行われ、二七の県行政機関においてピケツテイングが行われた。

県当局は、本件争議行為当日は各事業場で県職組員によるピケツテイングがなされることが予想されたため、無用の摩擦を避け、また、争議行為参加者とそうでない者との区別を明確にさせるため、予め各部局毎に庁舎外の特定の場所に職員を集合させ所定の時刻までに集合した者については出勤扱いとしたこともあつて約一、六〇〇名の職員が結果的にはピケツテイングにより入所を阻止された形となつた。

以上認定したとおり、本件争議行為の態様は約四八〇名の職員による早朝始業時より一時間の同盟罷業ではあるものの、主要事業場ではピケツテイングがなされたため一般職に属する県職員の三分の一以上の約二、〇〇〇名が就労できなかつたこととなり、具体的な問題は生じなかつたものの大多数の公共性を有する県の行政機関において業務の遅滞・混乱が生じたことは容易に推認できるところである。ただ一方、本件争議行為の主目的が第一に人事院勧告の実施時期の完全実施であり、第二に地方財源の確保であつたことは前認定のとおりであり、目的の点からみる限りその正当性を是認せざるを得ないが、人事院勘告が完全に実施されないといつても、人事院勧告では五月一日実施とされていたものが九月一日実施とされたにとどまり、俸給表の改訂は勧告どおり実施されることが政府によつて決定されていた(この事実はいずれも成立に争いのない甲第一〇号証の一、二及び前掲甲第一七号証によつて認める。)ことも考慮しなければならない。

1  原告阿部國人は停職三月、同寺本勝、同城戸智惠弘はいずれも停職一月の各懲戒処分を受けているが、前認定のとおり原告阿部國人は県職組の最高責任者である執行委員長、同城戸智惠弘は県職組書記長、同寺本勝は同特別執行委員として本件争議行為を実行に導き、原告阿部國人、同城戸智惠弘は積極的に争議行為にも参加した。

2  原告林田正幸他二七名

右原告らは、一月又は二月間俸給月額一〇分の一の減給処分を受けているが、前認定のとおり右原告らの一部は県職組本部役員として本件争議行為を実行に導き、更に積極的に争議行為に参加し、他の者は県職組支部役員として本件争議行為の遂行をそそのかし、あおり、更に積極的に争議行為に参加したものである。

3  原告中村正己他三二名

右原告らはいずれも戒告処分を受けているが、前認定のとおり右原告らのうち一部は県職組支部役員として本件争議行為の遂行をそそのかし、あおり、更にピケツテイングをし、あるいは同盟罷業をするなどして積極的に争議行為に参加し、他の者は県職組一般組合員として同盟罷業をし、あるいはピケツテイングをする等して本件争議行為に参加したものである。

以上右に認定したような各原告の本件争議行為関与の程度及び本件争議行為の規模、態様等諸般の事情を考慮すれば、本件争議行為発生の主原因が政府による人事院勧告の不完全実施にあり、その完全実施を求めてなされた本件争議行為の目的の正当性を考慮し、また、一部の者については被告が処分理由として主張する事実の一部が認められないことを勘案しても、本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、右処分が懲戒権者に委ねられた裁量権の範囲を越え、これを濫用したものとは未だ認め難い。

第五結論

以上によれば、被告らが原告らに対してした本件懲戒処分はいずれも適法である。よつて、原告らの請求は理由がないからいずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鐘尾彰文 加藤誠 吉田京子)

原告目録、別表(省略)

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